劣化した生態系の中に様々な生き物たちを放つことで、自然が回復していく――。そんな取り組みが少しずつ始まっている。試行段階ではあるが、手応えもあるという。中心となっているのは欧州だ。一体どんなことが行われているのか。チェコの現場を訪ねた。
見渡す限りの野原の中、弓なりに曲がった角を備えた大柄な黒っぽい牛が、時折周囲を見回しながら草をむさぼっていた。近くには、焦げ茶色のもさもさとした毛をまとった大型の動物の群れも見える。
チェコのミロビチェ自然保護区を5月に訪れた。首都プラハからは電車で1時間弱だ。
「オーロックスです。見てください、子どももいますよ。あちらにいるのはバイソンですね。オーロックスが警戒しています」。NPO「チェコ景観協会」のアニータ・コルブロバさんが声を弾ませた。
【動画】再野生化に取り組むチェコ・ミロヴィチェの保護区=杉浦奈実撮影
1600年代に絶滅した家畜牛の原種
「オーロックス」は、家畜の牛のもとになった種だ。かつて広く欧州にすみ、約2万年前の仏ラスコー洞窟の壁画にも描かれた。1600年代に絶滅したとされる。
同協会によると、ここではその遺伝子を強く受け継ぐ牛の交配によって、オーロックスに近づけた個体がくらす。一度は絶滅寸前まで追い込まれたヨーロッパバイソンや、英国から導入した「野生馬」もいる。
ミロビチェのように、人間が劣化させた生態系を自然の営みに準じつつ修復する取り組みは「再野生化(リワイルディング、rewilding)」と呼ばれる。堤防やダムの撤去、在来の樹種による森の再生のほか、人間活動で地域から絶滅したり、激減したりした種の再導入が試みられることもある。
再導入には、少数でも生態系…